この記事の要点

  • NISAは最後に使うのがよく、iDeCoと特定口座のどちらを先に使うべきかは口座構成などの条件次第で変わる
  • iDeCoを20年年金で受け取る場合、特定口座が多いモデルは70歳開始、iDeCoが多いモデルは65歳開始で資産寿命が最長
  • 序盤は特定口座だけを使うか、iDeCo年金と特定口座を併用し、特定口座がなくなった後はNISAで不足分を補う

特定口座・NISA・iDeCoは、運用益への税金と資金の引き出し方が異なります。そのため、どの口座から使うかによって、手元に残る金額や資産寿命が変わります。

この記事では、3つの口座の残高配分を変えたモデルを使い、取り崩す順序を比較します。iDeCoについては、一時金と20年年金の違いに加え、年金の受取開始を遅らせた場合も計算しました。

結論: NISAは最後、iDeCoと特定口座の順序は条件次第

NISAは最後に使うのがよく、iDeCoと特定口座のどちらを先に使うべきかは口座構成などの条件次第で変わります。

3つのモデルに共通したのは、NISAを最後に使うことです。序盤は特定口座だけを使うか、iDeCo年金と特定口座を併用します。特定口座がなくなった後は、その不足分をNISAから補います。

ただし、iDeCo年金の開始を遅らせる場合まで含めると、全員に共通する順序はありません。特定口座が多いモデルでは、特定口座を先に使って70歳からiDeCo年金を始める方法が最長でした。一方、iDeCoが多いモデルでは、65歳からiDeCo年金を始める方法が最長です。

つまり、「iDeCo、特定口座、NISA」の順が常に正解ではありません。NISAを最後に残す方針は共通しますが、iDeCoと特定口座の先後は、残高、受取時の税金、年金開始までの運用期間で変わります。

特定口座・NISA・iDeCoの違い

3つの口座は、運用益への税金と、資金を引き出せる時期が異なります。この違いが、取り崩す順序に影響します。

特定口座は売却益に20.315%課税される

この記事の特定口座は、源泉徴収ありを前提にしています。投資信託などを売却すると、売却額ではなく、その中に含まれる利益へ20.315%の税金がかかります。

上場株式等の売却益は、給与や年金などの所得と分けて計算する申告分離課税です。給与や年金の金額によって税率が上がる累進課税ではなく、売却益に対する税率は原則として一律です。

源泉徴収ありの特定口座では、金融機関が税額を計算して差し引きます。売却する時期や金額は自分で決められます。

NISAは運用益が非課税

NISAでは、口座内の売却益や配当・分配金が非課税です。売却時に運用益への税金がかからないため、同じ運用益なら特定口座より手取りが多くなります。

売却する時期や金額は自分で決められます。この非課税運用を長く残す考え方から、この記事ではNISAを最後に使います。

iDeCoは受取方法と開始時期を選べる

iDeCoは、利益部分だけを自由に売却して引き出す口座ではありません。受給可能年齢に達したあと、老齢給付金として受け取ります。

受取方法は、一時金、年金、または両者の併用です。併用できるかは運営管理機関によって異なります。

iDeCoの受取時には、特定口座のような一律の税率はありません。一時金は退職所得として扱われます。原則として、受取額から退職所得控除を引き、残額の2分の1を退職所得として税額を計算します。控除額は加入者等期間で変わり、勤務先の退職金や過去の一時金があると計算が変わる場合もあります。

年金は公的年金等に係る雑所得です。国民年金や厚生年金などと合算し、公的年金等控除を引いて所得を計算します。そのうえで、他の所得や所得控除も含めて所得税・住民税を計算するため、税額は年金額や他の所得によって変わります。

つまり、同じiDeCo残高でも、一時金と年金では税金の計算方法が異なります。受取額へ一律に何%かかるとはいえません。

受給開始は、受給可能年齢から75歳までの間で選べます。年金で受け取る場合は、原則として5年以上20年以下の期間から、運営管理機関が定める方法を選びます。金融機関によっては終身年金もあります。

受給を遅らせている間も、iDeCo内で運用を続けられます。

比較条件

国民年金は65歳から満額を受け取る

老齢基礎年金は、20歳から60歳までの40年間に保険料をすべて納めると満額になります。この比較では、65歳から2026年度の満額である月7万608円、年84万7,300円を受け取る前提です。

将来の年金改定は反映せず、年84万7,300円を実質額で固定します。この年金は、運用資産からの手取り180万円とは別の収入です。

総資産3,000万円の3つの口座構成

総資産はどのモデルも3,000万円です。変えるのは口座構成だけです。

比較する3モデルの口座構成
モデル特定口座NISAiDeCo
特定口座が多い1,800万円600万円600万円
NISAが多い600万円1,800万円600万円
iDeCoが多い600万円600万円1,800万円

計算条件は次のとおりです。

  • 取り崩し開始は65歳
  • 運用資産から毎年末に手取り180万円を得る
  • すべての口座を実質年率4%で運用する
  • 値動きはなく、毎年4%ずつ増える
  • NISAは最後に使う
  • 特定口座は源泉徴収ありとし、開始時の売却代金の50%が利益
  • 特定口座の利益に対する税率は20.315%
  • iDeCoの加入者等期間は20年
  • 勤務先の退職金と他の所得はない
  • 2026年時点の税制を将来も固定する
  • 運用手数料、社会保険料、住民税の均等割は考慮しない

一時金は65歳で受け取り、税引後資金を特定口座へ移して生活費に充てます。20年年金では、その年のiDeCo年金で足りない分を特定口座から出し、特定口座を使い切ったあとにNISAを使います。年金開始を遅らせる間も、iDeCoは同じ実質年率4%で運用します。

結果

3つのモデルに共通したのは、NISAを最後に使う流れです。序盤は特定口座だけを使う場合と、iDeCo年金と特定口座を併用する場合に分かれました。

iDeCo年金の開始を遅らせる場合は、開始まで特定口座だけを使います。iDeCo年金の開始後は、年金で足りない分を特定口座から補います。特定口座がなくなった後は、その不足分をNISAから補います。

iDeCo年金の開始を遅らせる場合は左の特定口座のみから、すぐ始める場合は中央のiDeCo年金と特定口座の併用から始まる。特定口座がなくなるとiDeCo年金とNISAを併用し、iDeCo年金が終わるとNISAのみになる図
NISAを最後に使う点は3モデル共通です。iDeCo年金の終了時に特定口座が残る場合は、特定口座を使い切ってからNISAへ移ります。

iDeCoを65歳から受け取る場合は20年年金が一時金より長持ち

iDeCoを65歳から受け取る条件では、3モデルすべてで次の流れが一時金より長持ちしました。

  1. iDeCoを20年年金で受け取る
  2. 毎年の手取り180万円に足りない分を特定口座から補う
  3. 特定口座を使い切ったらNISAから補う

iDeCo年金が終わる21年目以降は、特定口座が残っていれば特定口座、次にNISAの順で取り崩します。ただし、特定口座を20年以内に使い切るモデルでは、iDeCo年金の受給中からNISAも使います。

この流れと、iDeCoを一時金で受け取ってから特定口座、NISAの順に使う流れを比べた結果は、次のとおりです。

iDeCoを65歳から受け取る場合の資産寿命
モデルiDeCo残高一時金で受取20年年金で受取
特定口座が多い600万円24.1年24.4年
NISAが多い600万円26.6年26.9年
iDeCoが多い1,800万円23.9年25.4年

iDeCoが600万円の2モデルでは、20年年金のほうが約3〜4か月長くなりました。iDeCoが1,800万円のモデルでは、差が約1年7か月に広がります。

特定口座が多いモデルは70歳開始が最長

iDeCo年金を65歳から75歳までの各年齢で始めた結果は、次のとおりです。

iDeCo年金の開始時期による資産寿命の比較
モデル65歳開始最長の開始年齢最長の資産寿命
特定口座が多い24.40年70歳24.51年
NISAが多い26.90年68〜72歳26.92年
iDeCoが多い25.43年65歳25.43年

特定口座が多いモデルでは、65〜69歳の5年間を特定口座でつなぎ、70歳からiDeCo年金を始める方法が最長でした。ただし、65歳開始との差は約1.2か月です。

NISAが多いモデルでは、68〜72歳開始の資産寿命が小数第4位まで同じでした。65歳開始との差は約0.2か月で、開始時期による差はほとんどありません。

iDeCoが多いモデルは65歳開始が最長

iDeCoが多いモデルでは、65歳からすぐ20年年金を受け取る方法が最長でした。70歳まで遅らせると、資産寿命は約4.6か月短くなります。

延期年数を長くすれば資産寿命も長くなるわけではなく、口座構成によって結果が分かれました。

考察

年金受取では未受取のiDeCoを運用し続けられる

iDeCoの加入者等期間が20年なら、退職所得控除は800万円です。iDeCo 600万円は、一時金でも20年年金でも、この試算における税額は0円でした。それでも20年年金のほうが約3〜4か月長くなりました。

一時金の受取後は、税引後資金を特定口座で運用するため、その後の利益に税金がかかります。20年年金では、まだ受け取っていない残高をiDeCo内で運用できます。

iDeCo 1,800万円では、20年年金の税額合計が一時金より約18万円多くなりました。それでも資産寿命は20年年金のほうが約1年7か月長い結果です。

iDeCo残高と受取方法ごとの受取額・税額
iDeCo残高受取方法受取額iDeCo受取時の税額
600万円一時金600万円0円
600万円20年年金年44.1万円0円
1,800万円一時金1,800万円108.5万円
1,800万円20年年金年132.4万円126.6万円

実質利回り4%は、未受取のiDeCoを運用し続けることで年金が有利になり得る一例として置いています。将来の利回りを示すものではありません。利回りが低いとこの効果は小さくなり、一時金が長持ちすることもあります。

一時金にはNISAを長く残せるメリットがある

一時金には、税引後資金を先に生活費へ回し、既存のNISAを長く運用できるメリットがあります。この効果も試算に含めています。

NISAを初めて取り崩す年
モデル一時金20年年金
特定口座が多い17年目16年目
NISAが多い8年目5年目
iDeCoが多い17年目13年目

表は、取り崩し開始からNISAを初めて使った年を示しています。すべてのモデルで、一時金のほうがNISAを長く残せました。

ただし、20年年金では、NISAを使い始めたあともiDeCoに未受取の残高があります。NISAの取り崩し開始が遅いことだけでは、資産全体が長持ちするとは限りません。NISAと未受取のiDeCoを合わせて比べる必要があります。

税金が少ないことと資産が長持ちすることは別

資産寿命には、iDeCoの受取時にかかる税金だけでなく、受け取るまでiDeCo内で運用できる期間と、受取後にどの口座で運用するかも影響します。

一時金の税額が0円でも、年金受取のほうが長持ちすることがあります。反対に、公的年金や他の所得が多い人は、iDeCo年金を上乗せすると税負担が大きくなります。

iDeCoと特定口座のどちらを先に使うかは残高で変わる

iDeCo年金の開始を遅らせると、iDeCo内で運用を続けられる一方、その間の生活費は特定口座などから出す必要があります。

特定口座が多いモデルでは、iDeCo 600万円を5年間運用すると約730万円になります。70歳から受け取る年金額は約53万7,000円に増え、特定口座を先に使う影響をわずかに上回りました。

iDeCoが多いモデルでは、70歳開始の年金額が約161万1,000円まで増えます。その分、iDeCo年金にかかる税額も増え、開始前に特定口座とNISAを減らす影響も大きくなりました。

このため、特定口座が多い人には「特定口座、iDeCo年金、NISA」の順が有利になることがあります。一方、iDeCoが多い人は、iDeCo年金を先に始めるほうが有利になり得ます。

自分の場合に確認すること

全員に共通する一つの正解はありません。実際には、次の順で整理すると比べやすくなります。

  1. 65歳以降の公的年金と他の所得を確認する
  2. iDeCo年金を何歳から受け取るか決める
  3. iDeCo一時金に使える退職所得控除を確認する
  4. iDeCo年金を上乗せしたときの雑所得を計算する
  5. 受取前後にどの口座を使うか決める
  6. 税額と社会保険料だけでなく、資産寿命で比べる

勤務先の退職金がある場合は、iDeCo一時金との受取時期によって退職所得控除の計算が変わります。この試算では、勤務先の退職金を対象外としています。

この比較では、次の要素を計算から外しています。

  • 厚生年金や企業年金
  • 給与、事業所得、不動産所得など
  • 配偶者の所得と世帯単位の判定
  • 社会保険料控除、医療費控除、扶養控除など
  • 国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料
  • 住民税非課税の判定と住民税の均等割
  • 一時金を未使用のNISA枠へ入れ直す場合
  • 一時金を現金で持ち、相場下落時の売却を避ける効果
  • iDeCoの給付手数料と運用商品の手数料
  • 実際の相場の上下と収益率の順序
  • 将来の年金額と税制の改定

まとめ

65歳から満額の老齢基礎年金を受け取り、総資産3,000万円を実質年率4%で運用しながら、運用資産から毎年手取り180万円を得る条件で比べました。

NISAを最後に使う点は、3モデルに共通しています。序盤は特定口座だけを使うか、iDeCo年金と特定口座を併用し、特定口座がなくなった後はNISAで不足分を補います。

iDeCoの受取開始を65歳にそろえると、20年年金で不足分を特定口座から補い、NISAを最後に使う流れが3モデルすべてで最長でした。ただし、開始延期まで含めると、特定口座が多いモデルでは70歳開始、iDeCoが多いモデルでは65歳開始が最長です。

「受取時の税金が少ない方法」と「資産が長持ちする方法」は同じとは限りません。公的年金、一時金の控除、iDeCoの開始年齢、受取前後の取り崩し順序まで含めて比べる必要があります。

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よくある質問

iDeCoは少しずつ利確するほうがいいですか

iDeCoでは、利益部分だけを自由に利確する比較ではありません。年金で受け取る場合は、受取額全体が公的年金等の収入になります。

受取方法に加えて、年金を何歳から始めるかも資産寿命に影響します。

iDeCo年金は65歳からすぐ受け取るほうがいいですか

一律ではありません。この試算では、特定口座が多いモデルは70歳開始が約1.2か月長く、iDeCoが多いモデルは65歳開始が約4.6か月長くなりました。

NISAが多いモデルでは、65歳開始と68〜72歳開始の差は約0.2か月にとどまりました。

国民年金はいくらで計算していますか

20歳から60歳まで保険料をすべて納め、65歳から2026年度の満額である年84万7,300円を受け取る前提です。将来の改定は反映せず、実質額を固定しています。

iDeCo 600万円の20年年金に税金がかからないのはなぜですか

iDeCo年金の年額約44万1,000円と老齢基礎年金の合計は、約128万9,000円です。

65歳以上の公的年金等控除110万円と基礎控除を適用すると、簡略化した所得税・住民税の計算は0円になります。

一時金ならNISAを長く残せますか

残せます。この試算でも、一時金は税引後資金から先に生活費を出すため、NISAを使い始める時期が遅くなりました。ただし、実質利回り4%では、20年年金で未受取のiDeCo残高も運用し続ける効果が上回り、資産寿命は20年年金のほうが長くなりました。

iDeCoは一時金と年金を組み合わせて受け取れますか

運営管理機関によっては、一時金と年金の併用も可能です。

この試算は差を見やすくするため、全額を一時金で受け取る場合と、全額を20年年金で受け取る場合だけを比べています。

この計算に社会保険料は入っていますか

入っていません。

国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料、住民税非課税の判定などは対象外です。

出典