この記事の要点
- ガードレールは、取り崩しの割合が許容範囲を外れた年だけ、使う額を10%減らしたり増やしたりする決め方です。
- 年金がある人は、資産から出す額を10%減らしても、生活費全体の減り方はもっと小さくなります。
- 年金は物価ほど増えない年があり、その年は資産から出す額が物価以上に増えることがあります。
資産を取り崩して生活費を補う人で、次のようなことが気になっている人に向けた記事です。
- 相場が下がった年も、同じ額を使っていいのか
- 使いすぎて、資産が早く尽きないか
- 控えすぎて、使えたお金を残したまま終わらないか
- 減らすなら、いつ、どれだけ減らせばいいのか
こうした迷いに答える決め方の一つが「ガードレール」です。使う額が資産の何%にあたるかを毎年確かめ、その割合が、あらかじめ決めた許容範囲を外れた年だけ、使う額を減らしたり増やしたりします。
年金だけで生活費がまかなえていて、資産を取り崩す予定がない人には、関係の薄い内容です。
ガードレールは「許容範囲を外れた年だけ見直す」決め方
ガードレールでは、毎年するのは割合の確認だけです。使う額を大きく変えるのは、割合が許容範囲を外れた年に限られます。
道路のガードレールのように、はみ出しすぎない範囲を先に決めておきます。この記事では、これを割合の「許容範囲」と呼びます。範囲の上の端が「上限」、下の端が「下限」です。どちらも超えてはいけない限度ではなく、使う額を見直すきっかけになる値です。資産が大きく減って割合が上がりすぎたら、使う額を減らします。資産が増えて割合が下がりすぎたら、使う額を増やします。
割合が許容範囲に収まっているあいだは、使う額を物価に合わせて増やしていくのが基本です。値下がりした翌年は、増やさずに据え置くこともあります。相場が動くたびに暮らしを大きく変える必要はありません。
つまり、ガードレールの土台は、前の年に使った額を物価に合わせて増やしていく「定額」の取り崩しです。毎年の残高に同じ率を掛け直す「定率」の取り崩しとは、額の決め方が違います。残高は、物価分の増額を見送るかどうかと、10%増減するかどうかを判断するために使います。
もとになったのは、米国のFP、Jonathan Guytonの2004年の論文です。2006年にWilliam Klingerとの共著で、上限と下限を加えた形にまとめました。ほかの取り崩しの考え方との関係は、取り崩しの3学派で紹介しています。
1年目の額と「取り崩しの割合」
ガードレールの上限と下限は、1年目に決めた割合をもとに決めます。そのため、まず「割合」の数え方をそろえます。
この記事は、1年目の割合を何%にすべきかを示すものではありません。計算例で使う4.0%は、仕組みを見るための数字です。
割合は「その年に使う額 ÷ 年初の資産」
取り崩しの割合は、その年に使う額を、年の初めの資産額で割って求めます。この記事で「使う額」と書くときは、資産を売って生活費にあてる額を指します。
- 資産3,000万円で、1年目に120万円を使うなら、120万 ÷ 3,000万 = 4.0%
- 2年目以降は、残高に割合を掛け直しません。前の年の金額をもとにその年の額を決め、その額を年初の資産額で割って割合を確かめます
1年目の割合を、2年目以降の残高に掛け直して金額を決めることはありません。2年目からの残高は、割合を出して、据え置きや10%の増減が必要かを判断するために使います。
資産が減れば、同じ額を使っても割合は上がります。資産が増えれば、割合は下がります。ガードレールは、この割合の動きを見て判断します。
資産から出すのは、年金で足りない分だけ
年金を受け取っている人は、生活費の全額を資産から出すわけではありません。資産から出すのは、生活費のうち年金で足りない分です。
この記事の例では、次の世帯を使います。
- 生活費: 月25万円(年300万円)
- 税金などを引いた後の年金: 月15万円(年180万円)
- 使う額(資産から出す分): 年120万円
ガードレールのルールを当てるのは、生活費の300万円ではなく、この120万円です。
特定口座では、税金を引いた後の額で考える
特定口座で株や投資信託を売ると、利益に20.315%の税金がかかります。手元に120万円を残すには、それより多く売る必要があります。
売却代金の50%が利益なら、120万円を手元に残すための売却額は約133.6万円です。売却額と手取りの関係は、税引後の取り崩し早見表で詳しく計算しています。
割合を手取りで数えるか、売却額で数えるかで、割合の数字そのものは変わります。ただし、売却代金に占める利益の割合が変わらなければ、上限・下限を超えるかどうかの判断は同じです。この記事では、わかりやすさのため手取りで数えます。
3つのルール — 減らす・増やす・据え置く
ガードレールのルールは3つです。上限を超えたら減らす、下限を下回ったら増やす、値下がりした翌年は物価分の増額を見送ることがある、の3つです。
ここで紹介する上限・下限の置き方や調整の幅は、Guyton と Klinger の2006年の論文で使われた値です。この値が誰にとっても正しいという意味ではありません。
割合が上限を超えたら、使う額を10%減らす
その年の割合が、1年目の割合より20%を超えて上がったら、その年に使う額を10%減らします。減らした額が、翌年の基準になります。
- 1年目の割合が4.0%なら、上限は4.8%(4.0% × 1.2)
- 割合が4.8%を超えた年は、使う額を10%減らす
このルールは、計画の最後の15年間は使いません。論文の例では、100歳までの計画なら85歳以降は減らしません。論文の検証では、最後の15年まで続けても資産が尽きにくくなる効果はほとんどなく、使える額が減るだけでした。
割合が下限を下回ったら、使う額を10%増やす
その年の割合が、1年目の割合より20%を超えて下がったら、その年に使う額を10%増やします。増やした額が、翌年の基準になります。
- 1年目の割合が4.0%なら、下限は3.2%(4.0% × 0.8)
- 割合が3.2%を下回った年は、使う額を10%増やす
減らすルールだけでは、使う額は物価に追いつかなくなっていきます。増やすルールは、相場がよかった時期にその分を取り戻すためのものです。
値下がりした翌年は、物価分の増額を見送ることがある
割合が許容範囲に収まっている年は、使う額を前年の物価上昇分だけ増やします。ただし、次の2つが両方当てはまる年は、増やさずに前年と同じ額にします。
- 前の年に、資産の値動きがマイナスだった
- 物価分を増やすと、割合が1年目の割合を上回る
見送った増額は、あとから取り戻しません。前の年がマイナスでも、資産に十分な余裕があって割合が1年目より低いままなら、物価分は増やします。
例で見る: 資産3,000万円・1年目120万円で始めた場合
下の例では、最初の2年で資産が減って使う額を2回減らし、その後の値上がりで8年目に増やしています。 値動きは仕組みを見るための仮の数字で、過去の実績でも今後の予測でもありません。この8年間は、計画の終わりまで15年を超えて残っている期間とします。
| 年目 | 年初の資産 | 見直し前の割合 | 使う額 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 3,000万 | 4.0% | 120.0万 |
| 2年目 | 2,293万 | 5.2% | 108.0万 |
| 3年目 | 2,173万 | 5.1% | 99.1万 |
| 4年目 | 2,372万 | 4.3% | 101.1万 |
| 5年目 | 2,711万 | 3.8% | 103.1万 |
| 6年目 | 2,986万 | 3.5% | 105.2万 |
| 7年目 | 3,156万 | 3.4% | 107.3万 |
| 8年目 | 3,644万 | 3.0% | 120.4万 |
手取りで計算。特定口座・売却代金の50%が利益、物価上昇率は毎年2%と仮定。値動きは仮の数字で、1年目から順に−20%、0%、+15%、+20%、+15%、+10%、+20%、+5%。「見直し前の割合」は、物価分の増額(または据え置き)をした後、10%の増減をする前の割合です。計算の途中では丸めず、表や本文に示すときだけ四捨五入しています。
各年で起きていることは、次のとおりです。
- 2年目: 1年目の値動きがマイナスで、物価分を増やすと割合が4.0%を上回るため、増額を見送って120.0万円のまま。それでも割合は5.2%で上限を超えたため、10%減らして108.0万円
- 3年目: 2年目の値動きは0%でマイナスではないため、物価分を増やして110.2万円。割合が5.1%で上限を超えたため、10%減らして99.1万円
- 4〜7年目: 割合が許容範囲に収まっているため、物価分だけ増やす
- 8年目: 物価分を増やした109.5万円で割合が3.0%になり、下限を下回ったため、10%増やして120.4万円
翌年の年初の資産は、次の式で計算しています。
(年初の資産 − 使う額 ÷ 0.898425)×(1 + その年の値動き)
0.898425は、売却代金の50%が利益のときの手取りの割合です。
この例からは、次のことが読み取れます。
- 相場が下げ止まっても、使った分だけ資産は減り続けるため、減らす年が重なることがある。2年目の値動きは0%でも、3年目にもう一度減らし、使う額は1年目より約17%少ない
- 8年目に増やしても120.4万円で、1年目の額にほぼ戻っただけ。物価分だけを毎年増やしていれば、8年目は137.8万円(120万 × 1.02の7乗)になる計算で、それには届かない
定率の取り崩しと比べると
同じ値動きで、毎年の年初の資産に4.0%を掛ける定率の取り崩しをすると、使う額はその年の資産に合わせて毎年変わります。 ガードレールでは、前の年の額をもとに物価分を増やすか据え置くかを決め、許容範囲を外れた年だけ10%増減します。
| 年目 | ガードレールで使う額 | 定率で使う額 |
|---|---|---|
| 1年目 | 120.0万 | 120.0万 |
| 2年目 | 108.0万 | 91.7万 |
| 3年目 | 99.1万 | 87.6万 |
| 4年目 | 101.1万 | 96.3万 |
| 5年目 | 103.1万 | 110.4万 |
| 6年目 | 105.2万 | 121.3万 |
| 7年目 | 107.3万 | 127.5万 |
| 8年目 | 120.4万 | 146.2万 |
手取りで計算。値動き・物価・税の前提は上の表と同じです。定率は、毎年の年初の資産に4.0%を掛けた額を使う場合で、資産の増減も定率で使った場合のものです。金額は物価調整前の名目額で、定率は物価分を別に上乗せしません。計算の途中では丸めず、表に示すときだけ四捨五入しています。
定率では、2年目に91.7万円まで減り、8年目には146.2万円まで増えます。ガードレールでは、8年間の使う額が99.1万〜120.4万円の幅に収まっています。
どちらが有利かを示す比較ではありません。値動きが違えば、結果も変わります。
日本で使うときに確かめること
ガードレールの論文は、米国の退職者を前提にしています。日本で年金を受け取りながら使う場合は、3つの点を確かめておきます。
年金があると、10%減らしても生活費の減り方は小さい
ルールで減らすのは使う額で、生活費の全額ではありません。
この記事の例では、使う額の120万円を10%減らすと、12万円の減額です。生活費300万円に対しては4%にあたります。月25万円の暮らしが、月24万円になる計算です。
年金で生活費の多くをまかなえている人ほど、10%減らしたときの暮らしへの影響は小さくなります。反対に、使う額が生活費の大半を占める人は、10%の減額がそのまま暮らしに響きます。
減らせる支出が、どれだけあるか
ガードレールは、必要なときに使う額を減らせることを前提にしています。
家賃、保険料、通信費のような毎月決まって出ていく支出が大半だと、減らす余地はあまりありません。旅行や趣味、外食のように時期をずらせる支出があると、減らす年が来ても対応しやすくなります。
始める前に、生活費のうち減らせる部分がいくらあるかを確かめておきます。
年金は物価ほど増えないことがある
ガードレールでは、割合が許容範囲に収まっている年は使う額を物価に合わせて増やします。ただ、日本の年金は、物価が上がった分だけ増えるとは限りません。
2026年度の年金額は、前の年の物価が3.2%上がったのに対し、国民年金で1.9%、厚生年金(報酬比例部分)で2.0%の増額でした。賃金の伸びが物価より低かったことと、年金の伸びを抑える「マクロ経済スライド」という仕組みによるものです。
この記事の世帯で、生活費が3.2%増え、年金の手取りが1.9〜2.0%増えたと仮定します。
- 生活費の増加: 300万 × 3.2% = 9.6万円
- 年金の増加: 180万 × 1.9〜2.0% = 3.4万〜3.6万円
- 使う額の増加: 6.0万〜6.2万円
使う額の120万円は、物価の3.2%を超えて約5%増える計算です。年金がある世帯では、使う額を物価に合わせて増やすだけでは足りない年があります。
ガードレールの弱点
ガードレールは、資産が尽きにくくなる代わりに、使う額が年によって変わることを受け入れる方法です。
- 資産の減少が続くと、減らす年が何度も重なる。例では2年続けて減り、使う額は1年目より約17%少なくなった
- 減らした分は、相場が回復しても物価分まで取り戻せるとは限らない
- 上限・下限の置き方や減らす幅は、論文の値を使うか自分で決めるかを含めて、使う人が決める必要がある。決め方に正解はない
- 毎年、年の初めに資産額を確かめ、割合を計算する手間がかかる
この記事が扱っていないこと
この記事は、特定の取り崩し率や上限・下限、商品・配分を勧めるものではありません。
- 論文にある4つ目のルール(どの資産から売るかの順番)。資産の配分に関わるため扱っていません
- 口座ごとの使い分けは、特定口座・NISA・iDeCo、どの順で崩すかで扱っています
- 社会保険料、配当、年金の受け取り開始時期は計算に入れていません
- 値動きによって売却代金に占める利益の割合が変わり、税額が変わる影響は計算に入れていません
よくある質問
ガードレールとは、どんな取り崩し方ですか?
毎年、使う額が資産の何%にあたるかを確かめ、その割合が許容範囲を外れた年だけ使う額を見直す取り崩し方です。許容範囲に収まっている年は、物価に合わせて増やすのが基本です。
上限と下限は、何%に置けばいいですか?
この記事は、特定の上限・下限を勧めるものではありません。もとの論文では、1年目の割合より20%高い値を上限、20%低い値を下限にしています。
一度減らした額は、元に戻りますか?
自動的には戻りません。資産が増えて割合が下限を下回った年に、10%増やす形で戻ります。物価の上昇分まで取り戻せるとは限りません。
毎月見直す必要がありますか?
もとの論文では、見直しは年に1回です。年の初めに資産額を確かめ、その年に使う額を決めます。
年金を受け取っている場合は、どう使いますか?
ルールを当てるのは、生活費のうち年金で足りない分、つまり資産から出す額です。年金がある人ほど、10%減らしたときの生活費全体の減り方は小さくなります。
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主な出典
論文・制度の確認日:2026年10月19日。表と金額の例は、この記事で前提を置いて計算したものです。
