この記事の要点
- 国保と介護保険料に、年約40万円の差が出る例があります。金額は世田谷区の2026年度で計算しています。
- 株を取り崩して暮らしていても、住民税非課税世帯になれる場合があります。源泉徴収ありの特定口座で申告しない利益は、非課税の基準となる所得に入りません。
- 医療・介護で払う額にも上限があります。ただし、使わない年までお金が戻るわけではありません。
株を取り崩して暮らしていても、住民税非課税世帯になれる場合があります。 株や預金があることと、住民税がかかる所得があることは別だからです。
「年金だけでは足りない分を、株を売って補いたい」。そんな取り崩し生活では、毎年の保険料や医療・介護の支出も気になるところです。住民税非課税世帯に当てはまると、こうした負担が軽くなることがあります。
この記事は、株を売ったお金と少額の年金で暮らす人に向けて、負担がどれくらい変わるのか、どんな条件なら対象になるのかを説明します。源泉徴収ありの特定口座なら、株の利益は原則として確定申告しなくてよい、という基本も押さえます。
この記事では全国共通の仕組みを説明し、保険料の金額だけ東京都世田谷区の2026年度を例にします。自治体によって、実際の金額は変わります。
取り崩し生活で、住民税非課税世帯になるメリットは?
保険料だけで年約40万円、医療や介護を多く使う年には、自己負担もさらに年約24万円軽くなる例があります。
年約24万円は、医療なら年間の上限、介護なら12か月とも月の上限に達した場合の差です。
年金に加えて、株を売ったお金を生活費に使う場合で比べてみましょう。
- 70歳の単身世帯で、国民健康保険(国保)に加入しています。
- 年金は年120万円、株の利益は年300万円です。どちらも税金などを引く前の額です。
- 株は特定口座(源泉徴収あり)で、ほかの所得はありません。
本人が世帯主で、2025年の収入をもとに、世田谷区の2026年度の保険料を比べます。年度を通じて加入し、持ち越した株の損や特別な減免はないものとします。
この条件では、株の利益を申告するかどうかで、国保と介護保険料に年約39.8万円の差が出ます。
| 保険料 | 申告する | 申告不要 | 年額の差 |
|---|---|---|---|
| 国保 | 34.96万 | 2.01万 | 32.94万 |
| 介護保険 | 10.55万 | 3.66万 | 6.90万 |
| 合計 | 45.51万 | 5.67万 | 39.84万 |
70歳・単身、年金120万円・株の利益300万円。単位:万円。四捨五入のため表示上の差や合計が一致しない場合があります。税金の還付は含みません。
保険料は、病院や介護サービスを使わなくても払うお金です。この例では、その負担が年約45.5万円から年約5.7万円へ下がります。
差額は、年約45.5万円 − 年約5.7万円 = 年約39.8万円です。国保の端数を丸める前の目安で、2026年度からの子ども・子育て支援金分も含みます。
ただし、これは保険料だけの比較です。株の税金や、申告によって戻る税金は含みません。誰でも40万円安くなるという意味でもありません。
医療・介護を多く使う年には、窓口などで払う「自己負担」にも差が出ます。同じ70歳の例では、次のようになります。
- 医療:年間上限に24万円の差。 2026年8月〜2027年7月の上限は、申告した場合が53万円、申告しない場合が29万円です。どちらも上限に達するほど医療費がかかった場合の差です。
- 介護:12か月で約23.8万円の差。 月ごとの上限は44,400円と24,600円です。どちらも毎月の上限に達した場合の差になります。
医療や介護を使わない年に、このお金が戻るわけではありません。両方を使う場合は別の払い戻し制度もあるため、医療の24万円と介護の約23.8万円を、そのまま足すことはできません。
医療の差は53万円 − 29万円、介護の差は(44,400円 − 24,600円)× 12か月で計算しています。医療は保険診療、介護は上限の対象になるサービスの自己負担だけの比較です。入院や施設の食費・部屋代などは含みません。医療の所得区分は期間中に変わらず、区分を変える追加の所得控除もない前提です。
では、なぜ同じ収入なのに、申告するかどうかでこれほど変わるのでしょうか。
株を売って生活費にしても、非課税になれるのはなぜ?
特定口座(源泉徴収あり)で申告しない株の利益は、住民税の非課税の基準となる所得に含まれないからです。 売ったお金を生活費に使っても、この扱いは変わりません。
ここで大切なのが、取り崩して生活に使うお金と、制度で数える「所得」は同じではないという点です。
株を売って受け取るお金には、もともと投資した元本と、値上がりした利益が含まれます。税金の対象になるのは利益の部分で、売った額の全額ではありません。さらに、源泉徴収ありの特定口座には、その利益を申告しなくてよい仕組みがあります。
まず、年金は受け取った全額を所得として数えません。一定の金額を差し引く「公的年金等控除」があります。
70歳で年金120万円の例では、控除は110万円です。
年金120万円 − 公的年金等控除110万円 = 年金の所得10万円。
一方、特定口座(源泉徴収あり)では、証券会社が株の利益から税金を差し引きます。そのまま納税を終え、対象の利益を確定申告に含めない仕組みが「申告不要制度」です。
この制度を使うと、株の利益300万円は、非課税の基準となる「合計所得金額」に入りません。ほかの所得がないこの例では、年金の所得10万円だけで基準と比べます。
現在の国保や65歳以上の介護保険料でも、申告しない対象の利益は計算に入れません。冒頭の保険料に差が出る理由は、ここにあります。
ただし、非課税世帯でも、株の利益が無税になるわけではありません。 利益には合計20.315%の所得税等と住民税がかかります。
株の利益300万円なら、300万円 × 20.315% = 609,450円です。この税金を払ったうえで、非課税世帯になれる場合がある、という仕組みです。
なお、例に出した「株の利益300万円」は、売却代金から買値や売却手数料を引いたあとの額です。「生活費として300万円を取り崩す」という意味ではありません。
対象になるかは、株以外の所得と世帯で確認する
申告しない対象の株の利益を除いて、年金や給与などの所得が基準以下であり、同じ世帯の人も全員非課税であることが必要です。 株を取り崩しているだけで、自動的に非課税世帯になるわけではありません。
株以外が年金だけなら、65歳以上で年148万〜155万円以下が目安
株の利益を申告しない場合、まず確認したいのが年金額です。年金がある人が全員非課税になるわけではなく、年齢、地域、税法上扶養する家族の人数で基準が変わります。
非課税の基準に数える所得が年金以外になく、扶養する家族もいない場合の目安は、次のとおりです。表の年金額は、税金などを引く前の年収です。
| 地域の区分 | 65歳未満 | 65歳以上 |
|---|---|---|
| 1級地 | 105万 | 155万 |
| 2級地 | 101.5万 | 151.5万 |
| 3級地 | 98万 | 148万 |
課税対象の公的年金の税引前の年収。申告しない対象の株の利益を除き、年金以外の所得がない場合。各金額以下が目安です。単位:万円。
「級地」は、住んでいる地域の区分です。世田谷区などの東京23区は1級地に当たります。
65歳以上・扶養なしなら、世田谷区の所得の基準は45万円です。公的年金等控除110万円を足すと、年金収入155万円以下が目安になります。
つまり、年金120万円の例は基準内ですが、年金200万円なら、この扶養なしの基準を超えます。
税法上扶養する家族がいる場合は、基準が変わります。世田谷区では、65歳以上で、条件を満たす収入のない配偶者がいる場合、年金211万円以下が目安です。これは夫婦の年金を合計して比べる額ではありません。
障害年金や遺族年金には、所得税も住民税もかかりません。表の年金収入とは分けて扱います。
本人だけでなく、同じ世帯の人も非課税であること
本人の年金が少なくても、同じ世帯の配偶者などに住民税がかかっていれば、非課税世帯にはなりません。
住民税には、所得に応じてかかる「所得割」と、一定額を払う「均等割」があります。原則として、世帯全員に両方がかからないことが必要です。
介護保険料も、「本人だけが非課税」と「世帯全員が非課税」では区分が違います。国保や医療費の軽減では、世帯主や同じ保険の加入者など、確認する人の範囲も制度によって変わります。
退職した年ではなく、前年の所得で決まる
2026年度の住民税は、2025年中の所得で決まります。今年退職して収入が減っても、前年の給与が多ければ、すぐ非課税になるとは限りません。
また、所得税がかからない年金額と、住民税が非課税になる年金額は別です。確認するのは、住んでいる自治体の住民税の基準です。
株の利益は申告しなくてよい。申告する場合だけ注意
源泉徴収ありの特定口座なら、株の利益は原則として確定申告しなくて大丈夫です。 ただし、税金の払い戻しなどを受けるために申告すると、非課税世帯でなくなったり、翌年度の保険料が上がったりすることがあります。
年金120万円・株の利益300万円の例では、申告に含めることで、合計所得金額が次のように変わります。
年金の所得10万円 + 株の利益300万円 = 合計所得金額310万円。
年金も株の利益も同じ額ですが、制度で数える所得は10万円から310万円に増えます。その結果、冒頭の例では保険料が年約39.8万円高くなります。
2024年度の住民税、つまり2023年分の所得からは、所得税と住民税で別々の申告方法を選べなくなりました。
以前のように、「所得税では株を申告して税金を戻してもらい、住民税では申告しない」という方法は、今は使えません。
別の口座の利益と損を差し引くなら、利益側も申告が必要
証券会社が税金を差し引いて納めるので、生活費のために株を売って利益が出た、というだけで申告する必要はありません。
医療費控除などで確定申告をする場合も、この口座の株の利益は申告しない選択ができます。ただし、一般口座や特定口座の「源泉徴収なし」は別です。
同じ特定口座(源泉徴収あり)の中で、その年の売却益と売却損を差し引くなら、証券会社が自動で計算します。確定申告は不要です。
注意したいのは、別の口座の利益と損を差し引く「損益通算」をしたい場合です。このときは、損が出た口座だけでなく、差し引く相手の利益が出た口座も確定申告する必要があります。
たとえば、A証券の利益100万円と、B証券で同じ年に売って出た損40万円を申告すると、残る利益は60万円です。この60万円に年金などの所得を足して、住民税が非課税になる基準と比べます。
申告すると必ず非課税世帯から外れるのではなく、損を差し引いたあとの所得が基準を超えると外れる、ということです。 利益と同じ額以上の損があれば、株の売却による所得はゼロになり、ほかの条件も満たせば非課税世帯のままでいられます。
別の口座に損があるだけで、通算や申告が義務になるわけではありません。通算せず、源泉徴収ありの口座の利益を申告しない選択もできます。
このほか、年金などの所得が少なく、基礎控除や社会保険料控除を使い切っていない場合にも、申告すると株から引かれた税金が戻ることがあります。
ただし、税金が戻っても、保険料や医療・介護の負担が増えて、かえって損になることがあります。 こうした理由で株の利益を申告したい場合に、戻る税金と増える負担、減る給付を比べればよいのです。
前年以前の損失を引く場合は、所得の数え方に注意
ここでいう損は、課税口座で株を売って確定した損です。まだ売っていない含み損や、NISAで出た損は対象ではありません。
同じ年の損益通算とは違い、前年以前の損を申告して持ち越し、今年の利益から引くのが「繰越控除」です。同じ口座でも自動では適用されず、確定申告が必要です。
注意したいのは、前年以前の損失です。非課税の基準となる合計所得金額は、その損失を引く前の額で計算します。繰越控除で株の税金がゼロでも、非課税世帯を維持できるとは限りません。
一方、国保の保険料は、繰越控除をしたあとの額で計算します。冒頭の年約40万円は、持ち越した損失がない例なので、損失がある場合にはそのまま当てはまりません。
損失を翌年へ繰り越すには、株を売らなかった年も続けて申告が必要です。どの口座の利益を申告に含めるかとは分けて確認します。
取り崩す資産が多くても、メリットを受けられる?
この記事で紹介した通常の保険料軽減や医療・介護の自己負担の上限は、株や預金が多くても対象になれます。 持っている資産の額と、所得の条件は別です。
国保の通常の軽減、65歳以上の介護保険料の区分、高額療養費、高額介護サービス費は、資産が多いだけで対象外にはなりません。たとえば、株や預金が3,000万円あっても、それだけで外れるわけではありません。
ただし、株や預金から生じる所得は関係します。災害などによる特別な減免は、通常の軽減とは条件が別です。
介護施設の食費・部屋代の補助には、資産の上限がある
介護施設の食費や部屋代を軽くする「負担限度額認定」では、所得だけでなく、預金や株などの金額も調べます。
65歳以上で、年金などの収入が年82.65万円超120万円以下の区分では、資産の上限は単身550万円、夫婦1,550万円です。株や預金が3,000万円ある場合、この補助は対象外になります。
世帯全員に加えて、別の世帯にいる配偶者も住民税非課税である必要があります。この制度では、障害年金や遺族年金も収入に含めます。
非課税世帯なら、どんな支援でも使えるわけではありません。 毎年の保険料や自己負担の上限と、施設の食費・部屋代の補助は分けて考えます。
75歳以降の医療保険では、金融所得の扱いが変わる
75歳以降に入る「後期高齢者医療」では、株などの金融所得を保険料や窓口で払う割合に反映する改正が、2026年に成立しています。
この変更が始まる日は、法律が公布された2026年6月5日から5年以内に、政令で定めることになっています。
この記事の国保・介護保険料の計算に、すでに使われている変更ではありません。住民税の非課税の基準が変わるという話とも別です。
今の扱いが、将来の後期高齢者医療でもそのまま続くとは限らない点は押さえておきましょう。
よくある質問
NISAや預金の取り崩し、医療費控除の申告は、それぞれ扱いが異なります。株の利益を申告する話とは分けて考えます。
NISAの利益や、預金を取り崩したお金は所得になりますか?
NISAの対象となる株式や投資信託の売却益は非課税で、住民税の非課税の基準となる所得にも入りません。預金の元本を引き出すことも所得にはなりません。ただし、預金の利息など、元本から生じる利益とは別の話です。
源泉徴収なしの特定口座も同じ扱いですか?
いいえ。源泉徴収なしの特定口座では、この記事の申告不要制度は使えません。税金の対象となる利益は、住民税の非課税の基準となる所得に入れて考えます。所得税の確定申告と住民税の申告は、必要な条件が別です。
医療費控除で確定申告すると、株の利益も申告する必要がありますか?
特定口座(源泉徴収あり)の対象の利益は、医療費控除などで確定申告する場合も、申告不要制度を選べます。確定申告をすることと、株の利益を申告に含めることは別です。 ただし、申告しなかった株の利益から差し引かれた税金は、その申告では取り戻せません。
収入がなくても、住民税の申告が必要ですか?
自治体が所得を確認できていないと、国保の軽減を受けられないことがあります。収入がなくても申告が必要な場合があるので、自治体の案内を確認します。年金の支払報告書などで所得が確認できる場合は、原則として追加の申告は不要です。
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主な出典
制度確認日:2026年10月7日。
